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山吹色の自転車

狛江の自転車屋、SAGEBICYCLES(セージバイシクルズ)店主です。

実はとってもボロボロな自転車、いわゆるママチャリが店にあります。当初パンク修理で持ち込まれたものですが、お客さんの自己申告によると購入して7年目、仕事が忙しいため掃除もあまりしていなく、屋根付きの駐輪場がないため「雨ざらし放置もの」とのこと。

確かに塗装は紫外線で退色し、本来可愛かったであろう山吹色は茶色になり、傷、サビが一面に。ケーブルはヒビ割れてネジはサビの中で固着しています。スタンドは曲がって自立するのがやっとだし、グリップはカビが生え(ゴムとかプラスチックにもカビって生えるんです!)、クランクも曲がってるし。

とりあえずパンク修理してお渡ししたのですが、ぼくの悪い癖で「このこもちゃんとオーバーホールしたら、性能的には新品になりますよ」って言ってしまいました。

お客さんはとても感じのいい若い男性で、誠実で意志も強そうです。その表情は「昭和の男の子」。わかって頂けますか? この感じ。

「今日はこれから自転車を使うので、明日改めて持って来ますから、オーバーホールをお願いします」と彼は言ってくださいました。

翌日ぼくは基本料金と必要な部品は実費がかかる旨をお伝えし、その自転車を引き取りました。

ざっと洗車し、改めてその山吹色の自転車を見ると、自転車の心臓部であるBB(ボトムブラケット。クランクのシャフトを受ける自転車の中でも一番力のかかる部分です)も壊れているようです。

とりあえず全て分解洗浄し、各部を点検しました。

幸いフレームに致命的な問題はありません。あとはサビ落とし剤や真鍮ブラシ、サンドペーパーを使ってきれいにしていきます。

結果、曲がったクランクを取り替え、磨り減ったペダルを新品にし、チェーンを交換、スタンドを替えケーブル類を張り替え直し、サドルとグリップを新品に、ブレーキシューを替えてライトとダイナモも替えました。

壊れていたBBも外して(古い規格で手持ちの工具では対応できず、新たに工具を買いました)分解し、ベアリングを交換したら問題なく回るようになりました。いったいそれまでどうやって走っていたんだか?

考えるまでもなく、残ったのはフレームとホイール、タイヤくらい。修理しながら、「これじゃ最終的に幾らかかるかわからないなあ、新品買った方が安上がりだなあ、うーん、どうしようどうしよう」って考えてばかり。

見積もりを作ってやはりすごい金額になり、このまま請求することはできないなあと思いながら、どこを引いていけるか考えました。

ダイナモとライトは他の自転車から取ったものだからタダ。クランクとペダルは以前ネットオークションでタダ同然で手に入れたものだからタダでいい、後はサドルとスタンド、ベアリングやケーブルなど全て実費で、最後に値引きをしてなんとかこの山吹色の自転車の購入金額以下に。

「モノより思い出」というクルマのコピーがありますが、「モノにも思い出」だってあります。もしかするとこの自転車は、彼が東京で働き始めて初めての給料で買ったものかもしれない。もしかしたら誰か大切なひとがプレゼントしてくれたものかもしれない。そう思うと、この自転車はぼくに直して欲しがっているように感じるのです。

部品の取り寄せもあり、完成するのに1週間かかりましたが、お引き渡しの際、お客さんはとても喜んで下さいました。大きな彼に26インチの自転車は小さくて、でもなんだかほのぼのとしてとてもよく似合っています。磨いたから山吹色も少し鮮やかです。

この山吹色の自転車はこれからまた5年くらいは走ってくれるでしょう。自転車の寿命は手間とお金さえ惜しまなければほぼ永遠だとぼくは思っています。ただし、コストを抑えるためだけに作られたように自転車(のようなモノ)が存在するのも確かです。命の価格を値切ってはいけないと思います。

(追記)

その後、再度来店してくださったお客様と話していて、この自転車は別れた奥さんに買ってあげたものだということを教えてくださいました。

辛い思い出を忘れるのではなく、向き合うのもひとつの生き方。大変ですけどね。

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